サリドマイドの悲劇から社会は学んだ。
1960年代、世界で1万人以上、日本でも309人の子どもが薬害の犠牲となった。そこから医薬品承認制度は厳格化され、1979年には「医薬品副作用被害救済制度」が創設された。失敗は痛ましい犠牲を伴ったが、社会は制度を築き、未来を守る仕組みを得た。
では、青色LEDやNANDフラッシュの物語から、日本社会は何を学んだのだろうか。
青色LEDを発明した中村修二氏が会社から受け取った報酬は、わずか2万円。一方、その発明がもたらした市場規模は数兆円にのぼるとされる。訴訟の末、2005年に和解金約8億円が支払われた。この「2万円 vs 数兆円」の落差は、社会に強烈な衝撃を与えた。
NANDフラッシュを発明した舛岡富士雄氏もまた、東芝で冷遇され、1994年に退社。2004年には「少なくとも200億円の利益を生んだ」と主張し、10億円の支払いを求めて提訴。最終的に2006年、8700万円で和解した。だがその後、NANDフラッシュは世界市場で20兆円規模に成長し、サムスンが巨額投資で首位に立った。日本発の技術が、正当に評価されぬまま国外に覇権を奪われたのである。
これらの事件が話題になったのは、単なる「報酬の少なさ」ではない。
- 世界を変える発明が、発明者本人を救わなかったこと。
- 日本企業が自らの技術を正当に評価できず、結果として国際競争力を失ったこと。
- そして、訴訟という形でしか声を上げられなかったこと。
企業は制度を改めた。2015年の職務発明制度改正では、発明の権利を会社に帰属させる代わりに、事前に報酬ルールを定める仕組みが導入された。しかし、その多くは「訴訟リスクを避けるための自己保身」にとどまり、発明者を真に尊重する文化の醸成には至っていない。
くしくも、青色LEDもNANDも半導体である。
そして今、日本は再び半導体に未来を託そうとしている。熊本ではTSMCの工場が建設され、総投資額は約8,600億円、経済波及効果は10年間で約6.9兆円と試算される。北海道でもラピダスが5兆円規模の先端半導体工場を計画している。国家的な投資が進む一方で、最大の課題は人材だ。日本政策投資銀行の調査によれば、2030年までに国内で数万人規模の半導体人材が不足すると見込まれている。
人材こそが最大の資源である。
発明者を正当に評価し、挑戦を支える仕組みを整えなければ、どれほどの投資も砂上の楼閣に終わるだろう。サリドマイドの悲劇から学んだように、青色LEDとNANDの寓話からもまた、社会は学ばねばならない。
未来の光と記憶を支えるのは、制度でも資本でもなく、創造する人間そのものなのだから。
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参考文献:
[1] 経済産業省「半導体・デジタル産業戦略」
[2] 日本政策投資銀行「半導体人材確保の取り組みにおける現状と展望」

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