約5000年前、メソポタミアで楔形文字が発明され、人類は初めて「観測可能な情報」を記録できるようになった。しかし当初の情報は、ただ刻まれ、保存されるだけで、自ら動くことはなかった。
20世紀に電波が利用されると、情報は流動化し、テレビやラジオを通じてアクセス可能な人々の数が劇的に増えた。さらに20世紀末、インターネットの登場によって情報は即時化し、世界中へ瞬時に拡散するようになった。
この変化は物質の三態に驚くほど似ている。文字の発明によって情報は「固体」となり、電波によって「液体化」し、インターネットによって「気体化」した。そして放送とインターネットの融合、たとえば携帯電話による通信料金の極小化や、テレビとネットの統合によるストリーミングサービスの普及は、液体と気体の性質を併せ持つ「超臨界状態」と呼ぶにふさわしい。
その先に訪れたAI時代、情報は「プラズマ化」する。プラズマは電離した高エネルギー状態で、他の物質と容易に反応し、全く新しい物質へと変容させる力を持つ。生成AIはまさにこれに酷似している。既存の情報を集め、推論し、再構築し、これまでのデータから全く新しい結論を導き出すことを可能にしているのだ。
私はこれまで「情報科学」という分野に、他の科学分野とは異なる独特の毛色を感じ、違和感を覚えていた。しかし、物質の相転移と情報の進化を重ね合わせると、その性質と挙動が驚くほど類似していることに気づく。偶然の一致とは考えにくい。だが今は、それを証明する術を持たない。
もし物質の相転移と情報の相転移が本当に対応しているのだとすれば、情報の次なる状態はどのような性質を持つのだろうか。情報は人間とAIの境界を超え、社会制度や文化そのものを変容させる「超臨界を超えた新しい相」へと進むのかもしれない。
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参考文献:
- 田村定義「三態変化と状態図」
J-STAGE掲載論文。物質の固体・液体・気体の相転移を熱力学的に解説し、超臨界流体の特徴も扱っています。
リンクはこちら - 田崎晴明『相転移と臨界現象の統計物理学』
学習院大学公開資料。ミクロな要素の集合からマクロな性質が生まれる「協力現象」として相転移を解説。情報の進化を複雑系の観点から考える際に有用です。
PDFはこちら - 野村清英「相転移の統計力学」九州大学講義資料
相関距離や臨界指数など、相転移の理論的枠組みを整理。情報の「超臨界状態」を考察する際の理論的背景になります。
資料はこちら - 中西秀『相転移の統計力学講義ノート』
Van der Waals理論やランダウ理論を含む詳細な解説。情報の比喩を科学的に補強するための基礎文献。
ノートはこちら - Wikipedia「相転移」
相転移の基本的な定義や種類を網羅的に整理。初学者向けの概観として便利。
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