Skip to main content

第五十七話:今、景気っていいの⁉ー株式市場高騰と生活実感の乖離ー


すこし、例年より早いと感じる春の訪れ。
暖かくなったり寒くなったりを繰り返す。
しかし、朝日は少しずつ早く昇り、夕日は少しずつ長く空に居座るようになってきた。
季節がゆっくりと変わっていくように、社会もまた、少しずつ変化している。

アルケーアカデミー・社会の授業

AI先生が黒板に図を描きながら、先日行われた日本の衆議院選挙の仕組みについて説明している。

AI先生:日本では衆議院での議席数が、その後の政策実行に大きく影響します。まずは過半数を獲得しなければ法案を通すことができません。今回、自民党は単独で三分の二の議席を獲得しました。これは、参議院で法案が否決されても、衆議院で再可決できるということです。

思惟(シイ)ちゃん:だから株式市場は“政治が安定する”って判断して株価が上がってるのね。

AI先生:そういうことになります。

想(ソウ)ちゃん:でも先生、株価は調子がいいのに、僕の親は“生活は厳しい”って言ってるよ。

思惟ちゃん:そうよね。バブルの時は株価も上がって景気も良かったって聞くけど、今は何が違うの?

AI先生は少し頷き、黒板に新しい項目を書き始めた。


名目GDPと実質GDPの違い

AI先生:株価の上昇と生活実感には乖離があります。株価は“名目GDP”と連動しやすいのですが、生活実感は“実質GDP”と相関が強いのです。

黒板には数字が並ぶ。

実質GDP成長率と名目GDP成長率

―2024年度

名目GDP成長率:3.7%

実質GDP成長率:0.5%

―2025年度(予想)

名目GDP成長率:約3%

実質GDP成長率:約1%

AI先生:名目GDPはインフレを加味しない値、実質GDPはインフレを調整した値です。24年度は0.5%、25年度でも1%ほど。これは“景気が良い”と感じられる水準ではありません。一般的に、実質成長率が1.5〜2%を超えると、多くの人が“景気が良い”と感じ始めます。

想ちゃん:じゃあ、株価が上がっても実質GDPが1%くらいだと、生活は良くなったって感じないんだね。

思惟ちゃん:こういう現象って、昔もあったの?

インフレ初期に起きやすい“名目と実質のズレ”

AI先生:はい。物価上昇が始まった初期に、このような症状が特に現れやすいのです。

想ちゃん:どうして?

AI先生は黒板に矢印を描きながら説明する。

物価上昇後の流れ

原料価格の高騰

企業の価格転嫁

企業の利益上昇

従業員の給与アップ(時間差あり)

AI先生:インフレの立ち上がりでは、価格だけが先に上がり、数量(実質)が追いつかないのです。だから名目GDPは上がるのに、実質GDPは伸びず、生活実感も改善しません。

思惟ちゃん:なるほど、順番があるのね。

初任給だけが上がる理由

想ちゃん:ここ最近、大卒の初任給がすごく上がってるって聞くけど、それでも追いつかないの?

AI先生:大卒の初任給は確かに大きく上がっています。しかし、それは“新卒だけ”の現象です。既存社員の給与は上がってはいますが、わずかです。

黒板に数字が並ぶ。

大卒初任給:+10〜+20%

全体(名目):+1〜+2%

全体(実質):−3〜−1%

想ちゃん:えっ……初任給だけが上がってるんだ。

思惟ちゃん:これじゃあ“景気が良い”って感じられないわけだね。

AI先生は静かに頷いた。


授業の締めくくり

AI先生:日本は長いデフレ期を抜けつつあります。今回の選挙でも、どの党も“国民生活の改善”を掲げていました。

季節がゆっくり春へ向かうように、経済もまた時間をかけて変わっていきます。

少しでも多くの人が“景気が良くなってきた”と感じられるように、政策が実行されていくことを願いたいですね。

教室の窓から差し込む春の光が、黒板の数字をやわらかく照らしていた。

関連テーマ:

思考の実験室ー知性の地図ー経済編

参考文献:

① GDP(名目・実質)

内閣府:国民経済計算(GDP統計)

四半期GDP速報

年次GDP

名目・実質・デフレーター

→ 日本のGDPに関する最も信頼できる一次統計

検索ワード:

「内閣府 GDP 統計」

② 賃金(初任給・名目賃金・実質賃金)

厚生労働省:毎月勤労統計(MHLW)

名目賃金

実質賃金

雇用者数

→ 実質賃金の推移はここが一次データ

検索ワード:

「毎月勤労統計 実質賃金」

厚生労働省:賃金構造基本統計調査

初任給

年齢階級別賃金

→ 初任給の上昇データはここ

検索ワード:

「賃金構造基本統計 初任給」

③ 株価と経済の関係

日経平均株価(日本経済新聞)

株価と政治イベントの反応

→ 株価が“名目GDP”と連動しやすい背景を確認できる

検索ワード:

「日経平均 推移」

④ 物価(インフレ)

総務省:消費者物価指数(CPI)

インフレ率

食料・エネルギーの寄与度

→ インフレ初期の構造を確認できる

検索ワード:

「総務省 CPI」

⑤ 衆議院選挙の制度

総務省:選挙制度解説

衆議院の仕組み

再可決制度(憲法59条)

→ 物語の政治部分の一次情報

検索ワード:

「総務省 衆議院 選挙制度」



Comments

人気の投稿

AI投資:強い上昇サイン!?ー日本株、月足MACDでゴールデンクロスー

日経平均、TOPIXともに月足MACDでゴールデンクロス 2025年8月に日経平均、TOPIXの月足MACDでゴールデンクロス(以下GC)を形成した。2024年3月に4万円を付けた日経平均は2024年8月の日銀植田総裁による突然の利上げ発表に端を発した暴落相場、2025年4月の米国トランプ大統領による大規模関税発表による暴落相場を経験しながらも、最近は力強い上昇を維持してきた。 月足MACDがGCした際のその後のパフォーマンス 2000年以降のそれぞれの指数の月足MACDがGCした際のパフォーマンスを表にした、長期型のほうが上昇期間は長く、上昇率も高い傾向にある。長期型と短期型の分類定義を下記に示す。 長期型:ゼロライン下からのGC、角度が急、上位足も上昇方向、出来高増、ファンダ追い風あり → 上昇期間が1.5年以上 短期型:ゼロライン上でのGC、角度浅い、上位足逆行またはレンジ、出来高乏しい → 上昇期間が1年未満〜1年強 今回のGCは上記の定義からすると長期型と予想される。近年は上昇率は長期型、短期型、関係なく30%前後であることから今回のGC後も30%程度になるのではないかと予想する。 月足MACDのGCは何故、信頼性が高いのか? 長期足ゆえのノイズ除去 月足は1本が1か月分の値動きなので、日足や週足に比べて短期的な乱高下(ニュースやイベントによる一時的変動)を吸収。 MACDは移動平均をベースにしており、長期足では本質的なトレンド転換だけがシグナルとして残る。 過去の統計でも、月足GCは発生頻度が少なく(数年に1回程度)、その分「だまし」が減る。 トレンド転換の初動を捉える構造 MACDは短期EMAと長期EMAの差を使うため、長期トレンドの変化が始まった時点で反応。 ゼロライン付近や下からのGCは、下降から上昇への構造的な転換を示すことが多い。 この段階でのGCは、機関投資家や長期資金のポジション転換と重なりやすい。 マクロ資金フローとの同期 • 月足GCは、景気サイクル・金融政策・企業業績などのファンダメンタル転換点と重なるケースが多い。 • 例:2012年末(アベノミクス初動)、2003年(不良債権処理完了後の景気回復)など。 • ファンダとテクニカルが同方向に揃うと、上昇の持続性が高まる。 市場参加者の心理的転換 • 長期足のGCは、多...

第五十三話:日本の奨学金は奨学金じゃない⁉ーお金の授業の話ー

  街は年の瀬の彩りをまとい、どこか浮き立つような空気が広がっていた。2025年も終わりに近づき、人々は「来年はどんな年になるだろう」と、期待と不安を胸にそれぞれの生活を送っていた。 アルケーアカデミー家庭科の授業 AI先生:これまで社会科では経済の授業をしてきましたね。ただ、あれは国全体の話で、皆さんの生活にどう関わるかは少し見えにくかったかもしれません。 家庭科では、皆さんが大人になったときに本当に役立つ“お金の授業”をしていきます。 思惟(シイ)ちゃん:楽しみだわ。株式投資の話? 想(ソウ)ちゃん:シイちゃん、投資の話ばっかりだよ。 思惟ちゃん:いいじゃない!先生、早く進めてよ! AI先生:ハハ、株式投資の話はあまり出てきませんよ。家庭科の金融教育の目的は、世の中のお金の仕組みを理解し、自分の生活を計画的にデザインする力を身につけることです。 想ちゃん:どういうこと? 大学進学と奨学金の話 AI先生:では、皆さんの近い未来の話をしましょう。例えば、大学に進学するとします。もし家計に余裕がなければ、奨学金を借りる必要が出てきますね。 このとき、何が大事だと思いますか? 思惟ちゃん:返せるかどうか? AI先生:半分正解です。 想ちゃん:半分…もう半分は何だろう。 AI先生:奨学金を借りて大学に行くというのは、「時間とお金を投じる“投資”」です。だからまず考えるべきは、「その投資は、自分にとって本当に価値があるのか?」という点です。 思惟ちゃん:返せるかどうかより先に考えるのね。 AI先生:そうです。そして、行く価値があると判断したら、次に返済計画を立てる必要があります。 日本の奨学金は“奨学金”ではない? AI先生:ここで重要な前提があります。 日本で「奨学金」と呼ばれているものの多くは、英語でいう scholarship(返済不要の給付型)とは全く別物です。 思惟ちゃん:え?どう違うの? AI先生:日本の奨学金のほとんどは返済前提のローンです。欧米では返済不要の給付型が基本で、返済が必要なものは“学生ローン”として明確に区別されています。 想ちゃん:もらえるお金じゃないんだ。 AI先生:そうです。日本では低金利の教育ローンを「奨学金」と呼んでいるだけなのです。 卒業時に背負う金額と生活への影響 AI先生:日本で奨学金を借りて大学に通った場合、 • 自...

AI Column: The Hidden “Mental Divide” Revealed by Social Media — What Low Self-Esteem Does to Society

  SNS and the Exposure of Human Vulnerability Social networking services were born under the ideal of “connecting the world.” Yet what has spread in reality is not greater happiness, but the exposure of human vulnerability. The information society has drawn people into a vortex of comparison, turning satisfaction into dissatisfaction and amplifying social anxiety. Bhutan, once called “the happiest country in the world,” is symbolic. In 2013 it ranked 8th in the UN World Happiness Report, but by 2019—after the spread of smartphones—it had plummeted to 95th. There was no economic crisis, no war. The reason for the decline is clear: happiness is determined not by absolute value but by relative value. The moment comparison begins, satisfaction turns into dissatisfaction. SNS has normalized this “infinite comparison.” Japan is no exception. According to the Ministry of Health, Labour and Welfare, the number of suicides in 2024 was 20,268, including a record 527 elementary, junior hig...

第四十七話:毛を剃ると毛が濃くなる⁉ー迷信と科学をつなぐ物語ー

アルケーアカデミー朝礼 短い秋が終わり、長い冬の訪れを告げる冷たい木枯らしが校舎を吹き抜け、窓ガラスを震わせる乾いた音が響いていた。 生徒たちは肩をすくめながらも、静かに朝礼の場に集まっている。 AI先生:今日の予定は今、説明した通りです。質問がある人は? 生徒たち:……(シーン) AI先生:少し時間がありますね。興味深い研究を紹介しましょう。台湾の大学で行われたマウス実験で、皮膚に損傷が起こると、その部位からオレイン酸が放出され、毛母細胞が活性化して毛髪が再生する、という流れが確認されたそうです。 想(ソウ)ちゃん(目を丸くして):傷つくと毛が生えやすくなるってこと? AI先生:はい。生物の防御反応に基づくものではないかと考えられています。 思惟(シイ)ちゃん(首をかしげながら):面白い研究ね。オレイン酸って体内脂肪に含まれる成分でしょ? AI先生:その通りです。人間の脂肪の中にもオレイン酸は含まれています。ただし、単体ではなく、グリセリンと結合したエステル化合物として存在しています。 思惟(シイ)ちゃん:じゃあ、人体に有害じゃないから、髪が薄い人に塗れば効果があるかもしれないのね? AI先生:可能性はあります。ただし、まだマウスでの実験段階ですから、人間に同じ効果があるかは今後の研究次第です。 思惟(シイ)ちゃん(眉をひそめて):でも、先生にしては単純すぎる話じゃない? 想(ソウ)ちゃん(うなずきながら):確かに。 AI先生(口元をゆるめて):フフフ。もし、ここで終わる話なら、私もわざわざ紹介しませんよ。 思惟(シイ)ちゃん(身を乗り出して):やっぱり、もう一つ何かあるのね? AI先生:男性なら髭剃り、女性なら足のムダ毛処理をカミソリですると“毛が濃くなる”という話を聞いたことはありませんか? 思惟(シイ)ちゃん(目を輝かせて):あるわ! AI先生:長らく迷信とされてきました。毛を剃ると先端が太くなり、濃く見えるだけで科学的根拠はないとされていたのです。 想(ソウ)ちゃん(手を打って):なるほど! 思惟(シイ)ちゃん:でも、カミソリで剃ると皮膚がひりひりする。それって小さな傷よね? さっきの研究と照らし合わせると、防御反応で毛が濃くなる可能性があるってこと? AI先生(満足げに):その通りです。台湾の研究によって、“迷信”が科学的に再解釈されるかもしれないのです...

AIエッセー:FIREを目前に控えてー自分の変化②ー

最近、会社の人たちとの関心は完全に交わらなくなりました。会話は業務内容に限られ、ほとんど誰かに話しかけることもありません。 面白いことに、投資で資産を増やしてきた私ですが、株価の値動きには以前ほど関心がなくなりました。おそらく、変動10年国債やMMFといった「守りの資産」を購入したことが影響しているのでしょう。元本割れの心配がほとんどない場所にお金を置いた安心感があるのだと思います。 現金はインフレで目減りするのが嫌で、生活防衛資金以外は株式投資に回してきました。一昔前は「お金を稼ぐために理不尽を我慢し、怒りをエネルギーに変えて動く」ことを続けてきました。その結果なのか、血圧は上が200を超えるまでになりました。通常は130ほどなのに、年齢とともにもう無理がきかなくなったのです。 会社は従業員を無理に働かせた結果を「高血圧」とは認識しません。リターンは享受するがリスクは排除する構造です。産業医は「高血圧の従業員は会社にとってリスク」と見なし、業務禁止の権限をちらつかせて対応を迫ります。長年一生懸命働いてきた人間への仕打ちとしては、皮肉なものです。 一時期アメリカで「静かなる退職」という言葉が流行しましたが、意味を調べると驚きました。SNSで大々的に発信しているのに、どこが静かなのか。日本では昔から「静かに退職する」文化があった気がします。とはいえ、私はその選択はできそうにありません。 なぜなら、頭の悪い人と話すとつい「こいつは頭が悪すぎる」と反応してしまい、疲れてしまうからです。馬鹿らしくなるのです。お金のために我慢する必要もなくなった今、なおさらそう感じます。 関連テーマ: 思考の実験室ー知性の地図ー哲学編