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AIエッセー:中間業者の多い国は労働生産性は低くなるか? ― タイでの経験から見えた日本社会の構造的特性 ―



私は2011年末、超円高と不景気の日本を離れ、タイで現地採用として働いた。現地採用とは、日本企業からの出向ではなく、タイの法人と直接契約し、現地通貨で給料を受け取る働き方である。この経験は、私に日本社会の“構造的な欠陥”を理解させる大きな転機になった。

日本でアパートを探すなら、不動産紹介サイトを使うのが当たり前だ。仕事探しも転職サイトを使う。しかし、タイにはそのような仲介インフラはほとんど存在しなかった。日本人向けの高級物件サイトはあったが、現地採用が借りられるような物件ではない。では、現地の人々はどうしているのか。

答えは単純だった。Facebookだ。Facebookが巨大な掲示板として機能し、仕事探しもアパート探しも、ほぼすべてが直接交渉で完結していた。仲介業者はほとんど存在しない。私はハローワーク経由で応募したため最初は気づかなかったが、世界的に見ても日本ほど中間業者が生活のあらゆる領域に入り込んでいる国は珍しい。日本では住居、仕事、結婚に至るまで、中間業者が“価値判断”を代行している。

私は自分のことを優秀な方だと思っている。しかしそれは、他者との比較から生まれた感覚だ。数字もある。結果もある。しかも再現性がある。それでも評価されない。私は長い間、この理由が分からなかった。評価されたいわけではない。評価されれば、私はさらに成果を出すだろう。しかし、そうはならない。

この不可解さは、ノーベル賞受賞者のエピソードにも表れている。受賞した研究者の周囲の人々が「まさか受賞するとは思わなかった」と語る例が多い。つまり、海外の評価者と日本国内の評価者の間には、決定的な価値判断の乖離がある。私の経験と重ねるのはおこがましいが、ここから一つの仮説が生まれる。

日本社会は、極端に“価値”を評価できない社会なのではないか。

思い当たる例は枚挙にいとまがない。江戸時代の浮世絵は、芸術品ではなく消耗品として扱われ、包み紙にすら使われた。欧米人がその価値を見抜かなければ、歴史に残ることはなかったかもしれない。つまり、日本の“価値判断の欠如”は工業化以降の問題ではなく、もっと古い社会構造に根を持つ可能性がある。

この価値判断の欠如は、中間業者が異常に増殖する社会構造を生む。価値を自分で測れないため、判断を外部に委ねる。中間業者が存在するということは労働、生産にによって生まれた価値は薄められるがために低い労働生産性が指摘されやすいのかもしれない。そして、結果として、世界標準とは異なる独自の仕組みが生まれやすい。スマホ市場もその典型だ。世界ではBlackBerryがビジネススマホの王者だった時代、日本ではその存在すら知られていなかった。私はTime誌の英語版を読んでいたので知っていたが、タイに行くまで実物を見たことがなかった。iPhoneが受け入れられたのは、価値ではなく“ブランド力”によるものだろう。

では、なぜ日本だけがここまで価値を理解できない社会になったのか。

恐らく逆で、世界の諸外国が“価値基準で判断する社会”へ移行するための革命を経験したのに、日本だけが経験していないのだ。欧米は宗教改革、産業革命、フランス革命など、価値観を根底から覆す内部革命を繰り返してきた。しかし日本の近代化は、外圧によって強制されたものであり、社会のOSそのものは封建的価値観を引きずったままだった。

その結果、日本では“価値”ではなく“時間”が最も売買される資源になった。中間業者は価値を生み出さないが、時間を売買することで利益を得る。価値を生まない企業が利益を上げる構造は、国全体の生産性を下げる。日本の長期的な低成長は、単なる経済政策の失敗ではなく、価値判断ができないという“社会の持病”の表れなのかもしれない。

少し話は変わるが日本の商社群が異常な価値を持っているのはご存じだろうか。これは、昔から、価値の判断を外部に依存していたという決定的な証拠になる。三菱商事、伊藤忠商事、三井物産、住友商事、丸紅などだ。これらの企業はもともと企業の御用聞きとしてスタートした企業だ。海外ではこれほど成功したTrading Companyは存在しない。これらの企業は価値基準の外部化、リスクの外部化に貢献してきた。それぞれの企業の価値はトヨタほどではないがホンダ、日産と同等かそれ以上の企業価値だ。これは他国には見られない現象だ。世界でも成功しているこの企業群はやはり、値付けの部分で不正確な部分、価値を正確に評価することが出来ない側面が存在することによって、これほどの企業価値を持ったのだろう。

そして今、日本では奇妙な社会実験が進んでいる。バカロレア教育のような“考える教育”が導入されているが、これは日本社会に適応するための教育ではない。むしろ、そうした人材は日本社会に貢献できないことを悟り、海外へ流出するだろう。私も海外に出ることには賛成だ。日本という風土には感謝しているが、日本社会には限界がある。個人の幸福を追求するなら、外に出る選択肢は自然だ。

日本社会は、優秀な人材を閉じ込め、評価せず、最後は排出する構造を持っている。そして、たまにノーベル賞受賞者が出るとお祭り騒ぎをして消費して終わる。これは、価値を測れない社会の必然的な姿なのだろう。

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