日が沈むの早くなり、日が昇るのも遅くなり、街の空気はいつかのうっとおしい空気から気持ちのいい空気に取り替わっていた。黄金色に輝いていた田は米が刈り取られ、また、違った景色を演出している。
アルケーアカデミー物理の授業
AI先生は黒板に F=MA の式を書き、運動方程式について説明していた。ニュートンがリンゴが木から落ちるのを見て運動方程式を思いついたという逸話について、「生徒の皆さん、意味が分かりませんよね? 実はこういう話なんですよ」と冗談めかして生徒の関心を引く授業を続けていた。
想(ソウ)ちゃん:「先生、ニュートンとかガリレオとかがいたから、この時代の後にヨーロッパで産業革命が起こったの?」
AI先生:「いい質問ですね。ニュートンやガリレオ、コペルニクスなど、当時、ヨーロッパには優秀な自然科学者がたくさん誕生しました。彼らは、その後の産業革命に大きく貢献したと言えるでしょう。しかし、彼らの誕生を支えた影で貢献し、今なお、いろいろな所に影響を与えている学問があります。なんだと思いますか?」
思惟(シイ)ちゃん:「え、そんな学問あるの? うーん、ルネサンス? これは学問と違うか」
想ちゃん:「その頃に活発だったのは哲学?」
AI先生:「はい、そうです。哲学です。」
思惟ちゃん:「え? 全然意味がわからないわ。」
AI先生:「そうです。なかなか、産業革命の立役者の中に哲学が存在したなんて理解できないですよね。すこし、わかりやすい例を出しましょう。みなさん、IKEAという会社を知っていますか?」
思惟ちゃん:「もちろん、IKEAにはたまに週末に家族で出かけて、非日常を楽しむわ。」
想ちゃん:「そうだね、僕も家族で出かけて、これがヨーロッパの室内なのかって思うもの。」
AI先生:「そう、そのIKEAです。この巨大企業について簡単に説明しましょう。」
IKEAという企業
IKEA(イケア)は、1943年にスウェーデンで創業者イングヴァル・カンプラードによって設立された、世界最大の家具量販店(ホームファニッシング企業)です。
シンプルで洗練された北欧デザインと、驚くほど手頃な価格帯が特徴で、世界数十カ国に巨大な店舗を展開しています。
創業者の悩み
イングヴァル・カンプラードの最大の悩みは、一言で言えば「自分の『死』によって、手塩にかけたIKEAが解体・滅亡してしまうこと」でした。
具体的には、以下の3つのリスクに苛まれていました。
1. 巨額の相続税リスク
自身が死んだ際、莫大な相続税を払うために自社株を売り払わざるを得なくなり、外部の資本に会社を乗っ取られる恐怖。
2. 後継者・一族の不調和リスク
自分の死後、子供たちや一族が資産をめぐって争ったり、会社を売却して現金化(私腹を肥やす)してしまう危険。
3. 短期的な利益を求める資本主義の圧力
株式を一般公開(上場)すると、株主から「もっと値上げして配当を増やせ」と迫られ、「低価格で大衆に家具を提供する」というIKEAの理想が壊される懸念。
思惟ちゃん:「まだ、よくわからないけど、要は創業者の死によってIKEAがダメになることが嫌だったのね?」
AI先生:「そうです。スウェーデンでは当時、相続税が70%もあり、創業者が何もしなければ、株式を公開し、その70%を国に納めてしまうと、IKEAという会社が変わってしまうことを恐れたのです。」
想ちゃん:「うん、それで?」
AI先生:「ここからが一番面白いところです。なぜ、相続税で国に税を納めなければならないのでしょう?」
思惟ちゃん:「え? そんなの持ってるからに決まってるじゃない。」
AI先生:「相続税を課すことが出来る条件に『所有していること』が挙げられます。つまり、所有していなければ、相続税の対象ではありません。」
想ちゃん:「所有権を放棄するってこと?」
思惟ちゃん:「それだと、売却することと変わらないんじゃない?」
AI先生:「ここで『所有権とはなんなのか?』を考えてみましょう。」
所有権を構成する3つの権能
使用権(しようけん)
物を自分の目的に従って使う権利です(例:自宅に住む、車を運転する)。
収益権(しゅうえきけん)
物から生じる利益(果実)を得る権利です(例:所有する不動産を他人に貸して家賃を得る、土地で育てた作物を収穫する)。
処分権(しょぶんけん)
物を売却する、譲渡する、あるいは壊したり消費したりして、その物の法律的・物理的な運命を決める権利です。
これら3つをすべて、あるいは自由に包括的に支配できる権利が所有権です。
AI先生:「この3つの機能が揃って、初めて『所有している』ことになります。」
思惟ちゃん:「確かに、自分の所有するノートについて置き換えると、そのままね。ノートに書くことが出来、ノートを売ったり、ノートを捨てたりできる。これを、他人がやったら、おかしいわね。」
AI先生:「そうです。今回は簡単のために詳細な話はしませんが、IKEAの創業者は所有権を自ら作った財団に移しました。しかし、財団は自ら作ったものなので、財団に対する支配権というものは残っているのです。結果、2の収益権、3の処分権を放棄し、会社を動かす『支配権』だけを手元に残した形に出来たのです。」
想ちゃん:「なるほど。でも、その財団は誰のものなの?」
AI先生:「誰のものでもありません。財団とはそういうものなのです。」
思惟ちゃん:「なんとなく、読めてきたわ、先生が言いたいこと。」
AI先生:「フフ、見えてきましたか?」
想ちゃん:「切り離せないと思っていたものを、西洋哲学は切り離すことに成功した? だから産業革命の立役者のひとりってこと?」
AI先生:「はい、その通りです。今回は、この概念の切り離しは日常になり、認識するのが難しいため、あなた方がイメージしやすい例を出しました。この哲学がなぜ産業革命を支えたのか? 切り離しの概念が何を変えたのかを説明しましょう。」
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