今回は第四回となる。前回までは前提①、②について解説し、万人向けではないものの、システムに搾取されないための具体的な対処法について述べてきた。
今回は、このシリーズの中でも最も根深く、そして避けて通ることのできない「前提③」についての解説と、その対策について述べていく。
前提③:就職氷河期世代が社会保障の受益層から消え去るまで、社会保障費用は増大し続け、国民負担率は上昇の一途をたどる。
第二回においても言及したが、おそらく、この国における「大戦の清算」が終わるのは、就職氷河期世代がこの世界から消え去るころだと推測している。
なぜ、そのころまで引きずるのか。その理由は明確である。日本の現行の社会保障システムは、戦後のリソース不足の中で作られた「簡易的不完全制度(性善説ベースの制度)」だからだ。国全体が右肩上がりに成長し、人口が拡大することを前提に作られたこのシステムは、今や人口動態の重みに耐えきれず完全に立ち行かなくなっている。今後は、国を維持するために「性悪説ベースの制度」へと強制的に切り替えざるを得ない局面に立たされている。
1. 医療費を押し上げる「性善説システム」の限界
具体的にどういうことかというと、現行の健康保険制度には「許容されている治療であれば、無制限に患者に適用可能である」という致命的なバグが存在する。薬も根拠さえあれば出し放題。これでは、医療費は高齢者の増加とともにただ増えるのみである。
その代表例が「胃ろう処置」などの延命医療だ。自分の力で食食事をとれなくなり、胃に直接栄養を供給して延命する治療などは、現在では保険適用可となっている。しかし、厚生労働省のデータが示す通り、生涯医療費(約2,700万円)の約半分は70歳以降に消費され、75歳以上の後期高齢者の1人当たり医療費は65歳未満の約4倍に達しているのが現実である。欧米では回復の見込みのない延命は慎重に判断される傾向が強い中、日本では「お互い様、善意」を前提とした性善説のもとで、無制限に保険が適用されてきた。
しかし、このような「一律・無制限の給付」が保険適用外になり、峻別・制限される未来は、すぐそこまで来ている。
その先がけの動きとして、現在、政府(厚生労働省)では、ドラッグストア等で買える市販薬(OTC医薬品)と成分が似ている薬(OTC類似薬)の保険適用の見直しを本格的に進めている。湿布や花粉症の薬、保湿剤(ヒルドイドなど)がその対象だ。
すでに、ヒルドイド(ヘパリン類似物質)の美容目的の不適切処方に対しては自己負担を引き上げる選定療養化への布石が打たれ、湿布薬には「1処方につき原則63枚まで」という制限がかけられている。財務省の財政制度等審議会でも、「OTC類似薬を原則保険対象外にすれば、数千億円規模の国費抑制になる」と試算されており、これまで「善意」で処方されていた薬は、最終的にはすべて「全額自己負担」へと向かうことになるだろう。
このように、就職氷河期世代が本格的な老後に突入する前に、持続性を最優先し、個人を厳しく縛る「性悪説ベース」への法改正が進んでいかざるを得ない。
2. 団塊ジュニア・氷河期世代を襲う「2040年問題」の凄惨
なぜなら、この就職氷河期世代は、日本の人口ボリュームゾーンである「団塊ジュニア世代」と完全に重複しているからである。
学校卒業時に正規雇用に就くことができず、新卒一括採用制度をいまだに続ける日本においては、非正規雇用から正規雇用への転身は他の世代と比べ物にならないほど厳しかった。私自身も2001年度卒なので、正直まともに就職できなかった。当時、この世代の非正規雇用率は30〜40%にまで達し、日本の強固な雇用慣行によって、その多くがその後も非正規のまま固定化された。
その結果として、この世代がもたらすマクロデータは極めて凄惨な数字となっている。
この世代の生涯未婚率は断トツで高くなっている。国立社会保障・人口問題研究所のデータによると、1990年には男性5.6%、女性4.3%に過ぎなかった50歳時点の未婚率は、この氷河期世代が直撃した2020年には男性28.3%(約3人に1人)、女性17.8%(約6人に1人)へと急上昇し、日本の歴史上最高値を記録している。
本来であれば、最大の人口の塊として「第3次ベビーブーム」を起こし、次の現役世代(システムを支える側)を育てるはずだった団塊ジュニア。しかし、社会の優先順位を考慮し、切り捨てられた彼らは結婚も子供を持つことも選べず、結果として第3次ベビーブームは消滅した。システムを維持するための「未来の支え手」すら同時に消失したのである。
しかし、構造科学的な視点に立てば、私は「第3次ベビーブームが起きなくて本当によかった」とすら考えている。
もしここで仮に第3次ベビーブームが起き、システムを支える「未来の現役世代」が補充されてしまっていたらどうなっていただろうか。国は間違いなく、性善説ベースの不完全な旧OSを、だましだましもう一世代延命させていたはずだ。それはつまり、大戦の清算(戦後システムのツケ)の額をさらに天文学的な数字にまで膨らませた上で、今の子供たちやさらにその先の世代にすべてを押し付ける「最悪の先送り」を意味する。
第3次ベビーブームの消滅は、この不良債権化した戦後システムを、我々の世代で強制終了(シャットダウン)させるための歴史的必然だったのだ。社会から切り捨てられた氷河期世代は、皮肉にもその身を賭して、負の連鎖を次の世代の手前で食い止める「防波堤」となったのである。
3. 老後のない世代
同時に、彼らの老後の蓄えもおそらく多くはない。非正規雇用や低賃金労働の期間が長かったことから、厚生年金の加入期間が短い(あるいは未加入の)人が多く、老後の年金は「基礎年金(満額でも月約6.8万円)」のみ、あるいはそれを下回る低年金・無年金リスクに晒されている。
民間シンクタンクの試算では、氷河期世代の低所得層が高齢化することで、将来的に生活保護受給者が数十万人規模で急増し、追加の財政負担が年間数兆円に達すると警告されている。年金も貯蓄も少額であることを考慮すると、この世代には「現役を引退して悠々自適に暮らす老後」など存在せず、文字通り死ぬまで働かざるを得ないかもしれない。
生活保護も現状では年金生活者より優遇されているというSNSでの投稿が後を絶たないが、これから起こる生活保護の改悪は、就職氷河期世代をターゲットにしているととらえて間違いないだろう。
彼らが完全な高齢者となる2040年に向けて、国は破綻を防ぐために現役世代からの搾取を強めてきた。財務省が発表する「国民負担率(所得に対する税金と社会保険料の割合)」の推移を見れば、その一途をたどる上昇ぶりが一目瞭然である。
1970年度: 24.3%(戦後の経済黄金期)
2000年度: 35.1%(我々、氷河期世代の社会進出期)
現在: 45%〜48%前後(「五公五民」と揶揄される水準)
今後、この巨大な氷河期世代を支えるために、国民負担率は50%を優に超えていく。私たちは、北欧並みの高い税金を払いながら、医療や福祉のセーフティネットは「性悪説」によって極限まで削ぎ落とされるという、まさに大戦の清算がもたらす「最悪のディストピア」へと向かっているのだ。
4. この前提に立つ「個人の構造的自衛策」
就職氷河期世代は、その人口の絶対数、比率とも多すぎるため、システム側から見れば「もっとも効率的に削るべき対象」であり、同時に「逃げ切りが不可能な世代」である。経済的な包囲網が狭まる中、用意周到な準備が必要となる。不運な4つの前提のうち、もっとも対策が取りづらい世代といえるだろう。
転職市場で相手にされるのはハイスキルのスタッフのみという現実を踏まえた時、残された時間は15年(±5年)。この冷徹なカウントダウンに対し、個人が取れるアクションは限られている。システムに潰されないための「構造的自衛」を急がねばならない。
「固定費」の構造的削減(生存コストの最適化) もっとも重いコストである「都会の家賃」をリセットすべく、地方都市への移住や、あるいは住居コストが極限まで抑えられた就労環境(寮完備の職種など)へのシフトを選択肢に入れ、生活の維持費自体を下げる。
「資本論理」の強制導入(新NISAの徹底活用) 労働収入だけに依存する構造から脱却するため、生活防衛資金を確保した上で、新NISA口座を活用したインデックス投資などの資産形成へリソースを傾斜配分し、厳しい老後に備える。
「生存戦略」の再定義 一般企業への転職が閉ざされていく中で、SNS界隈で共有されている「持たざる者のFIRE戦略」やスモールビジネスの知見を徹底的にベンチマークし、個人単位での自衛手段を組み立てる。
あなたが、世にいう就職氷河期世代の代表例みたいな人であった場合、悠々自適の老後という「幻想」は捨て、システムが牙を向く前に自らの『OS』を個人の生存特化型へと書き換える必要がある。
FIREなどを目指すことは難しい局面かもしれないが、まだ、時間は残されている。最悪の清算の直撃を回避するための行動を、今すぐ起こすべきだ。
次回は第五回、前提④:個人はしょせん個人であり、政治や巨大なマクロ構造に対して大きな影響力を持つことはできない。にたった戦略について解説する。
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