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AIエッセー:世界中で起こるビッグマックから見た購買力の低下

 


2007年、リーマンショック前夜の世界は、グローバル化の恩恵と持続的な経済成長の謳歌の中にあった。世界全体のGDPは力強く拡大を続け、人々は「明日も世界はより豊かになる」と信じていた。

それから約20年。パンデミックを経験した世界は、深刻な供給網の分断と大規模な金融緩和のツケである「世界的なインフレの波」に飲み込まれた。インフレを抑え込むために各国の中央銀行は急激な利上げを余儀なくされ、世界中の庶民の生活をじわじわと圧迫している。

しかし、ニュースで語られる「名目賃金の上昇」や「GDPの成長」という数字の裏側で、私たちの生活実感(リアルな実質購買力)には一体何が起きているのだろうか。

それを解き明かすために、世界共通の実物通貨である「ビッグマック」を物差しにして、一般労働者(中央値層)の年間手取り収入で「ビッグマックが何個買えるか」をリーマンショック前(2007年)と現在で比較してみると、そこには衝撃的な事実が浮かび上がってくる。

スイスという「奇跡」と、世界中で起きている購買力の沈没

2007年と現在を比較したとき、最初に気づくのは「スイスという極めて特殊な例外を除き、世界中の主要国で中間層の実質購買力が壊滅的に低下している」という不都合な真理だ。

【年間手取り(中央値)で買えるビッグマック個数の歴史的推移】

  • スイス: 2007年 約 11,110個 ➔ 現在 約 10,270個 (微減 -7.5%)

  • アメリカ: 2007年 約 13,040個 ➔ 現在 約 8,490個 (大幅減 -34.8%)

  • ドイツ: 2007年 約 8,500個 ➔ 現在 約 5,710個 (大幅減 -32.8%)

  • スウェーデン: 2007年 約 7,270個 ➔ 現在 約 5,120個 (大幅減 -29.5%)

  • 日本(断トツ): 2007年 約 13,570個 ➔ 現在 約 7,290個 (崩壊 -46.2%)

強靭な安全通貨「スイスフラン」の防壁によってインフレを無効化したスイスだけが、わずか7.5%の目減りで「無傷」の立ち位置を保っている。

しかし、それ以外の先進国は全滅だ。名目賃金が大幅に上がっているはずのアメリカであっても、それ以上のペースで物価が跳ね上がったため、手取りで買える実質的な購買力は約35%も喪失した。ドイツやスウェーデンといった欧州の高福祉国も、30%近い購買力の目減りに悲鳴を上げている。世界中の主要国で、紙幣が刷られ続けたことによる「インフレ税」が庶民の豊かさを奪い去ったのだ。

断トツの低下率(-46%)――なぜ日本の落差はこれほどまでに残酷なのか

だが、この世界的な購買力沈没の波の中で、日本の落差はあまりにも断トツで、残酷である。

2007年当時、日本のビッグマックはデフレのピークで280円だった。当時の会社員(中央値)は年間手取り(約380万円)で、年間「13,570個」ものビッグマックを購入することができた。実はリーマンショック前の日本は、アメリカやスイスすら凌駕する「世界一クラスの実質購買力(無敵状態)」を誇っていたのだ。

それが現在、どう変化したか。

手取り給与が伸び悩む一方で、社会保険料の天引きは重くなり、ビッグマックは480円に値上がりし、為替は150円台の歴史的超・円安へ振り切れた。その結果、現在の日本の中央値層が買えるビッグマックは「年間7,290個」へ激減した。

実に約46%の崩壊である。

世界各国が3割前後の購買力低下で苦しむ中、日本だけが「購買力がほぼ半減する」という異次元の落差を経験している。「リーマンショック前と比べて暮らしが厳しくなった」という私たちが皮膚感覚で抱く違和感は、ノスタルジーなどではなく、46%という数値に裏打ちされた冷酷なファクトなのだ。

成長を続ける国々の「見せかけの豊かさ」

ここで見落としてはならないのは、「GDPが成長している国であっても、庶民の実質購買力は同じように沈没している」という点である。

たとえば、2023年に日本を抜いて名目GDP世界3位となったドイツを見てみよう。為替の影響を含めた「一人当たり名目GDP」で比べれば、ドイツは日本の約1.5倍に達し、数字の上では日本を圧倒しているように見える。

しかし、実物通貨である「ビッグマックの購入可能数」で比較すると、その評価は180度逆転する。 現在のドイツの中央値層が買えるビッグマックは年間「5,710個」。対する日本は「7,290個」だ。為替で換算された名目上の金額ではなく、現地で暮らす一般人が「生活の中で買える実物の量」で比べれば、日本人はドイツ人の約1.3倍ものビッグマックを買うことができるのである。

つまり、日本以上に壊滅的な物価高に見舞われているドイツの庶民生活は、私たちが外から想像する以上に極めてシビアだ。名目GDPの数値ほど外食を楽しむ余裕はなく、自家用車の維持も厳しく、最新のiPhoneを手にする心理的ハードルも日本人より遥かに高くなっているはずだ。

一見すると経済成長を謳歌しているように見える欧米諸国であっても、実体としてはリーマンショック前より明らかに貧しくなっている。

では、なぜこれほどまでに世界中で、同時並行的に「実物の購買力」が蒸発しているのだろうか? 名目GDPという数字の成長の裏側で、世界経済に一体どんな構造変化が起きているのか――。


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